• 私は大学卒業後すぐに自分で事業を興しました。
    親戚のおじさんが大手不動産屋に勤めていたことから、見よう見まねで知人や友人などに不動産情報を提供することから始まり、25歳の時には当時暮らしていた賃貸マンションの一室で不動産会社を経営するようになっていました。
    折しもバブルの前兆時期とあって景気は良く、不動産手数料もどんどん入ってきていました。
    多少資金が出来ると、借りろ借りろとうるさくせっつく銀行の話にも乗る形で資金を調達、いわゆる土地転がし的な事も行いました。
    ただ、悪徳系の不動産会社が莫大な利益を上げる中、私はそれでも地味な方だったと思います。
    もしもバブル時期に派手に借金を重ねていたら、それこそ歌う不動産屋みたいにバブル崩壊とともに借金に埋まってしまっていたでしょう。



    30歳の時に結婚、同業者というか同業者仲間の紹介で知り合った妻とともに都内に店舗を移し、順調かつ安定的に事業を営んでいました。
    今思えば当時バブルにはあまり関係がないと言いながらも、それなりに儲かっていたのは事実です。
    ほんの小さな、土地など30坪にも満たない一軒家が7千万円もした時代です。
    フェラーリを買おうとしても数年待ちなんて平気で言われ、確かどこかのデパートの超高額福袋にベンツのSLが入っていたはずです。
    その後バブルは収束に向かい、景気悪化の兆しが見えてきました。
    しかし私は景気悪化は一時的なもので、すぐにまた回復するだろうと思ったものです。
    そこで安くなった中古の一戸建てを購入、6千万円弱の買い物でした。
    自己資金はありましたが銀行の顔を立てて借り入れ、金利は年7%に近かったと思います。
    何しろ4千万を借りて、返済額は1億を超えていたのです。
    そして金利が上がれば返済しているにもかかわらず残高は増えていきました。
    それでも住宅がどんどん売れた、そんな時代だったのです。


    バブル崩壊後に景気は悪化しました。
    確かに景気は悪くなったのですが、私はインターネットに着目していたのでいわゆるネットバブルの恩恵を受けられたのだと思います。
    ホームページの開設などを含めてIT化に力を入れました。
    同業他社はそんな私を見て、ホームページなんて開いても無駄だよ、客は店に来て物件を見るのだからと言いました。
    確かにネットだけで契約に至るわけではないのですが、新鮮な情報をより速く提供できるという点で大きなメリットがあったと思います。
    不動産情報は、同じものがいくつもの不動産屋に流れます。
    その、どの不動産屋で契約をするかはお客様次第であり、つまりは同じ情報をいち早く提供できた方が有利なのです。
    当時はまだまだインターネットは一般化していなかったのですが、それでも効果はあり、事業は順調でした。

    子供が生まれました。
    特に避妊していたわけではなかったのですが、なぜかそれまで恵まれず、なのでとてもうれしかったのを覚えています。
    子供が4歳の時だったか、先天性の異常が発見されました。
    保険非適用の治療を受けるのが効果的だと言われましたが、それには莫大な費用がかかります。
    当時の私の年収は2千万円ほどでしたが、それを持ってしてもすぐに支払える額ではなかったのです。

    しかし病気を放置すれば治療が難しくなると言われ、会社の金を流用することにしました。
    本来会社の金を個人でもらう場合には役員報酬となり、課税されます。
    しかしその課税されるべき金すら惜しかったのです。
    脱税、そう、脱税です。
    しかし幸いにしてそれが税務調査で指摘されることはありませんでした。

    税逃れをするには入り口、つまり収入を少なく見せるか出口、すなわち支出を大きく見せるかの2通りです。
    現金商売の場合は収入を低く見せる方が簡単だとは思いますが、不動産会社はすべて契約書が残るのでそれは難しいのです。
    従って私は出口、つまり経費を過大に計上しました。
    たとえば広告宣伝費や、インターネットホームページの構築料などを架空に計上したのです。
    これは原子力委員会だかなんだかのホームページ管理費用が年間1億円も計上されていたというニュースからヒントを得たものです。
    もちろん1億円などと言う法外な値段は計上しませんでしたが、それなりに妥当性のある架空の経費を計上したのです。
    ようするに、役所などが裏金を作る時にやる手法と同じです。
    過大請求を立てて貰ってカネを払い、あとでバックして貰ってプールするという、あれと同じです。
    こうした悪事を働いても公務員は無事ですが民間人は捕まります。
    下手をすれば逮捕もされます。


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    子供の治療は継続的に行い続ける事を要しました。
    無理をしなければ普通に生活は出来ますが、いつも不安がつきまといます。
    決定的な治療法がないので、この保険適用外の治療を行う以外に道がありませんがそれも運命です。
    会社はそこそこ順調でしたが、脱税をやめることが出来なくなっていました。
    税金を払えば治療費が出せなくなる、税金を払った上で治療費を出すほどには稼げていない、そんな感じでした。

    脱税をはじめて2回目か、3回目の税務調査でついにその部分が指摘されました。
    これまでの調査では何も言われなかったので安心しきっていたと言うこともあるとは思うのですが、指摘されれば言い訳は出来ません。
    こちらの事情がどうであろうと違法は違法です。
    脱税に緊急避難はありません。子供が病気だろうが何だろうが脱税は許されないのです。

    今までに逃れた税金を払わなければならなくなりました。
    金額は国税が約1億円、地方税などが数千万円でした。
    これは個人への所得と見なされるので、個人の所得税も支払う必要があります。
    しかし住宅購入があったために、年収の増加とともにその控除額が増えて結果として還付になりました。
    収入が増えた事によって税額が減少するという、なんだかおかしな事になりましたがそれは一部分だけです。
    個人の所得に関する税金は還付になったものの、事業税部分が代わるはずもなく1億円を納税しなければなりません。

    当然ながら一括全額納付など出来るはずもなく、分割の支払いを約束して国税には税金を払います。
    やがて都民税の納付書が山のように送られてきました。
    こちらは個人住民税で、数百万円の支払いを行わなければなりません。
    当然こちらも一括納税は出来ないので、区役所に説明に行きました。
    しかし国税と違って区役所は話を聞いてはくれませんでした。
    今すぐ全額支払え、支払えないのならば財産を差し押さえるというのです。

    これは当然のことでしょう。
    私は家を売却して納税に充てるべく、売却の準備をしていたのです。
    しかしその売却を区役所は待てないと言います。
    今すぐに金をそろえて持ってこなければ、即刻差し押さえだと言われ、事実翌日には差し押さえの通知が届きました。
    それまでは何とか事業収益を上げながら納税を行っていこうと思っていたのですが、個人の住宅や会社の通帳を差し押さえられては何も出来ません。
    少し待ってくれとお願いしたところで区役所はそんな話は聞いてはくれません。
    会社の金を差し押さえられるとすぐに倒産となり、その後の納税が出来ませんと言っても駄目でした。
    とにかくあるものは全て差し押さえる、差し押さえ額の合計が私の成績に影響するのだからもっと差し押さえさせろと言います。
    私は保険その他を解約して手元に幾ばくかの現金を用意しました。
    その数日後、解約した後の生命保険を差し押さえると区役所から連絡がありましたので、どうぞ勝手にしてくださいと返事をしました。
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    保険や積み立てを全て解約して何とか1千万円を作り、会社の整理、従業員への説明を始めました。
    突然放り出される従業員もたまったものではないでしょうが、全て差し押さえられている以上事業の継続は不可能です。
    幸いにして銀行借り入れなどは一切なかったので、税金以外の負債を追うことはありませんでした。
    個人的には住宅ローンが残っていますが、その住宅は差し押さえられています。
    銀行に迷惑をかけないようにするには、売却によって住宅ローンと未納付税の両方が支払えればいいわけです。
    時間はあまりありませんでしたが、不動産売買はプロですからこの条件に合わせるべく売却をしました。

    会社も実質的に失い、自宅も失い、その代わり銀行ローンもなくなりました。
    残っているのは会社名義の自動車、個人名義の自動車、わずかな手持ち現金だけです。
    このまま放っておいても民間の借金取りに追い回されることはありませんが、区役所や国税に追い回されるのは更に辛いことです。
    しかし破産申請を行ったからと言って税金が免除されることはありません。
    自己破産しようが何をしようが税金は消えないのです。
    しかし私は自己破産の道を歩むことになります。
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